2月22日その事件は起こった。

その日は2月だというのに強い南風が吹き、春に霞がちな空もそれのおかげで澄んでいて、降り注ぐ陽射しが眩しかった。

「事件」について語る前に私のことについて説明しておこう。

私には名前がない。ただ、職業の名称として「暗殺者」と呼ばれている。周りの連中はなぜか訛って「ハサシン」と呼ぶ。

私はあるエージェントに身を寄せて活動している。そこには様々な職業の奴らが所属しているが、皆やることは同じだ。エージェントの上にいる巨大な黒い組織から依頼を受けて狩りや探索、時には人同士で戦争をする。なぜそんな事をするのか気にならない訳ではないが、巨大組織について色々と考えたところで仕方のない事だ。

エージェントは【猫の穴】という。【46名】ほどがマイペースに働く、のんびりとしたところだが気ままに過ごせるので気に入っている。

気まますぎて【毎週日曜日22：30〜のギルドボス討伐】を忘れたりもするが、忘れたことに誰一人として気付かない気ままっぷりには流石に閉口する。

そう、そんな自由気ままにのんびりと過ごしている時にあの事件は起こったのだ。

あの日、黒い巨大組織から周年記念として我々にプレゼントが届くという知らせがあり、全ての職が集まった。そのプレゼントとは新しい衣装だというのだ。

正直、新しい衣装を身につけたからといって強くなるわけではない。しかし人前に出て何らかの活躍をしようとする職業で自らを装飾するのを嫌がる奴なんていないと言っていい。

むろん我々は一様に浮足立った。

相変わらず薄い布切れのような衣装しか支給されない職、独特なフォルムのヘルムばかり支給される職。それらを横目で見て、鼻で笑いながら私は自分の衣装を探した。

あれ？

少し焦りながらもう一度探した。

え？？

誰かの衣装の下に敷かれていないか、地味すぎて見過ごしていないかと念入りに探した。

無くない？？？

各々が専用衣装を試着し評価やうんちくを口にして騒然とする中、震える声を抑えつつ少し大きめの独り言を呟いてみる。

「これってさ〜、全部の職業分あるのかな〜〜〜？」

誰一人聞いてくれない。若干恥ずかしい。

周りを見渡していると、ひとりの女と目があった。私より少し遅れてエージェント契約を結んだどこぞの王女様だ。

羨ましいくらい全身を鎧で覆った新衣装。しかしなぜか局部だけ覆われておらずパンツ丸出し。普段の私なら失笑ものだが今は一切笑えない。

なぜかというと私の直近の新衣装が海パンだからだ。

2月だというのに未だパンイチ。失笑どころの騒ぎではない。

救いを求めて他の奴らに目を向ける。

よほど衣装が嬉しかったのか部屋中を騒ぎながら駆け巡る小童（こわっぱ）がいた。

その衣装を見て愕然とする。

お前、インナーどころかアウターまで作ってもらったのか……。

しかもブーメランをまるでスケートボードのように乗り回す小童が探偵衣装だと？

黒い巨大組織よ、それは小学館に向けて胸を張って発信できる内容なのか？

この小童の見た目が人気があるのは知っている。しかしそれ以上の事も私は知っている。

こいつら見た目は子供、頭脳は後期高齢者じゃないか。

落胆し、目を床に向けると慌ただしく足元を走り回る生き物がいた。

それを見て私はついに足から崩れ落ちた。

犬畜生、お前ですら鎧を貰えたのか。

そもそも己が飼う愛玩動物にそのように重そうな鎧と、視界を妨げるデザインのヘルムなど着用させてSNSなどに載せようものならまたたく間に虐待と捉えられて炎上しそうなものだが、ああぁぁあぁぁぁ、なんて羨ましい！

今まで他人が連れているペットを見て可愛いなどの感想を持ったことがあるが、ペットの衣装を見て羨ましいと思う日が来るなんて、これはもう人として超えてはいけない一線じゃないのか。

なぜだ、なぜだなんだ黒い巨大組織よ。

私が何をしたというのだ。

私に暗殺者となり気配を消せと言ったから常に気配を消してきたというのに、気配を消しすぎて気付かれず忘れられたなんて事があっていいと思うのか？

おのれ黒い巨大組織よ。この屈辱、忘れはせぬ、忘れはせぬぞ。

我は「暗殺者」ハサシンなり。

お前たちの寝首を掻くのは容易い事。

闇に紛れて忍び込み、お前たちの大切な物に手を付けてやる。

そう、気付かれぬうちに忍び寄り、お前たちが大事にしているデータに手を加えてやる。

衣装タブを選んだ時に必ずハサシンのクラスが1番に表示されるようにしてやるからな。

（ФωФ^) ( *⌒)

どうでもいい事ですがソラリス実装のお知らせの前に、なぜか2周年キャラは魔法使いのジジイなんじゃないかという妄想に取り憑かれて、1年前のネタ（https://forum.jp.blackdesertm.com/Board/Detail?boardNo=32&contentNo=11983）

の続編を考えていたら妄想が妄想のまま終わりました。危うく妄想癖が露見するところでした。