体にまとわりつく冷気に体温を奪われ目が覚めた。
どうやら酒に酔ってカウンターで眠ってしまったらしい。
どれくらい眠っていたのだろう、訳あり気なカップルとマスターがいない。
テーブルに目をやると空になったグラスの奥にはラベルにバイソンが描かれたボトルが見える。
マスター...、私がズブロッカ弱いの忘れてカクテルに使ったな。
時刻を確認しようとスマホを探すが見当たらない。
そういえば今日は家に忘れてきたんだった。
ふと得体のしれない焦燥感が湧き出る。
何かを忘れている気がする
人の気配が全くしないので、外へ出ようと玄関のドアを開けようとするがピクリとも動かない。
どうやら店に閉じ込められてしまったらしい。
外の様子を見ようと窓を探すが見当たらない。
そういえば以前マスターが、店舗改装の際に元あった窓を酒棚で隠したと言っていた事を思い出す。
消防法はどうクリアしたんだ
カウンターの端にシェーカーが置かれているのに目が留まる。
普段はこんな所に置かないはずと何気に手に取り、中を開けてみると小さな紙切れが入っている。
【ギルドLv7】
意味がわからないが何かのメッセージだろうか?
薄暗い店内の隅、テーブル席の奥に怪しい鈍い光を見つける。
【バールのようなもの】
本来どのような時に使う物なのか分からない凶器感ただよう物だが、密室においてはこの上なく頼もしい存在に思えるのはなぜだろう。
ひょっとしてトイレに窓は無かっただろうかと思い入ってみるが無機質な壁に囲まれているのみである。
鏡を見ると一部が薄っすらと汚れているのに気が付き、はぁーっと息を吹きかけてみる。
【攻撃3、防御1】
お洒落なメッセージかと思いきや、まさかの臨戦態勢で軽く身構える。
喉が渇いたな
マスターがいないのをいいことに、カウンターの中に入ってみる。
酒棚を眺め、いつもの12年ではなく、いかにも古そうなボトルに手を伸ばす。確かワンショット〇千円と言っていたが香りしか嗅いだことがない。
ボトルを持ち上げるとそこにメモが置かれていた。
【 猫を
のろわば
穴ふたつ 】
驚きのあまりボトルを落としそうになる。
危ない、割ってしまったら飲み代の過去最高額をぶっちぎりで上回るところだ。
急に照明がチラついたように感じたので振り返る。
壁のスクリーンにはいつも虚無に古い映画が映し出されているが、それが終了したようでエンドロールが流れている。
【ギルドボス:水曜・日曜22:30~】
エンドロールが終わり、スクリーン一面がブルーになったところで左下に時刻が現れる。
23:52
瞬時に焦燥感の正体を理解する。と同時に再びドアへと駆け寄る。
そうだ、今日のデイリークエスト終わっていなかったんだ
ドアノブに手をかけたところで外からシャッターが開く音が聞こえた。
そういえばこの店はドアが外開きなのに、その外側にシャッターが設置されているという恐ろしい造りだった事を思い出す。
ドアの外から聞きなれたマスターの声が聞こえる。
「お腹すいたんでちょっと食べに出てたんですよー。無銭されると困るから外からシャッター閉めておいたんですけど、起きましたぁ?」
すっかり酔いも冷めたところで、思わず手に持っていたバールのようなものを強く握り直す。
長いって?これでも1/2くらいに量を減らしたんですよ。
(ФωФ^) ( *⌒)